良い日旅発ち(1989年10月14日)
 
全日空機
我々を乗せた全日空ロンドン行き直行便201便は、成田の新東京国際空港を午前11.30分離陸してロンドンに向け約13時間余の空の旅を続ける。東京とロンドンでは時差が9時間あり日本の方が先行しているのでロンドン時間では午前2.30分に出発した計算になる。従って午後4.30分にガトウィック空港に到着。
ガトウィック空港はヒースロー空港に次ぐイギリス第二の空港で、85の航空会社が209の都市への運航を行っており年間3000万人が利用する世界で7番目に利用客の多い空港でもある。この空港からロンドン市内までは45キロの距離がありバスでの所要時間は大凡80分である。我々を驚かせたのはヨーロッパのこの年は40年ぶりの暖かい秋と言うことで、用意してきた防寒具も必要ない状態であった。
空港からの道すがらロンドン郊外に拡がる秋の風情を楽しみつつ[ザ・チヤーチル・ホテル]に到着する。(写真右図)ザ・チャーチル・ホテルこのホテルはロンドンの繁華街[ピカデリーサーカス]や[ハイドパーク][バッキンガム宮殿]にも近く、アクセスの良い場所に位置している。各客室の設備もゴージャスで快適なロンドンでの第一夜を過ごす事が出来た。明日からのスケデュールを点検しながら、テレビのスイッチを入れてイギリスのテレビ番組をモニターする。

ロンドンのタクシー
ロンドンのタクシー
黒塗りの四角いタクシーは、2階建てのバスと並んでロンドンの名物のひとつである。初めてロンドンにタクシーが登場したのが1897年だそうで、本格的なエンジンを搭載したタクシーは1903年のことである。私もショツピングに2度ほど利用したが、客席は広くゆったりとして乗り心地はすこぶる快適、唯タクシーにもチップがいることに気づかず恥をかいた経験を思い出す。



ロンドン寸描
この日(10月15日)は終日、観光とショツピングの為のフリータイムで過ごす。
早朝散歩を兼ねて近くの[ハイドパーク]に出掛ける。ハイドパークはロンドンの代表的な公園の一つであるが、この公園の名物の一つは[スピーカーズ・コーナー]で、此処は市民が自由に演説できる場所で、常時誰かが政治や経済から、様々な話題について熱弁を振るっている。英語がわからないので何を論じているかは全くわからないが弁士の熱の入った語り口と、聴衆の反応は見ているだけでも楽しい。
朝食後貸し切りバスで市内の観光に出発する。コースは定番のコースであるが、ロンドンの歴史や地理に詳しいベテランガイドの説明を聞きながら最初のスポット[タワーブリッジ]を目指す。此処は数年前にも一度訪れているが、その後写真などで見ているせいか異常な懐かしさがこみ上げてくる。

タワーブリッジ
タワーブリッジ遠くに見えるのが有名なロンドン・タワーブリッジで、ビクトリア女王時代の1894年に完成した。8年の歳月と巨費を投じて建設されただけに、19世紀の技術の粋が集積した建造物と言えよう。橋の長さは266b、中央が開閉式で、ゴシック様式のタワーの間に架けられハネ橋で、タワーブリッジの名称は、この橋の北側に[ロンドン塔]があるからだとも言われている。テームズ川の静かな流れの中に悠然と鎮座するタワーブリッジの美しさは何度見ても感動するばかりだ。


ロンドン塔
タワーブリツジの直ぐ側に位置する[ロンドン塔]は、1078年ノルマン公であるウイリアム・ザ・コンクェラーによつて建設された中世の城で、ロンドンでも随一の観光名所と言われている。ロンドン塔は中世における英国王の居城、宮殿そして牢獄として使用されていた。この塔で目を惹くのは[ヨーメンyoemen]と言われる守衛さん達である。軍人から選ばれたヨーメンは、ブルーに赤い線が見事にデザインされた制服を纏い、観光客のガイド役をしたり、一緒にカメラに収まるなどロンドン塔の名物の一つとなっている。

大英博物館
大英博物館大英博物館は、世界でもトップランクの博物館で所蔵するコレクションの規模の大きな事でも有名である。とてもこの広大な博物館を短時間で見るのは不可能でさっと一通り見て回ったに過ぎないが、展示されていた[五千数百年前のエジプトのミイラ]には余りのリアリティな姿に度肝を抜かされた。その他、ベートーベン、バッハ等のオリジナルな楽譜、古代ギリシアの彫刻などが展示され、この博物館からも往時の大英帝国の威光が感じ取られる、そんな思いで駆け足の見学を終えた。(註)詳しくは大英博物館のホームページをご覧下さい。

ビツグ・ベン・国会議事堂
ビッグ・ベンとして有名な時計台はテムズ川を見下ろす河畔に建てられ高さ約95bの偉容を誇っている。(左図)
この時計台は(右図)の国会議事堂の一部でこの鐘の音は美しく、ビツグ・ベンというのはこの鐘の事を指している。一方国会議事堂は1852年に完成したものでテムズ川の面は274bあり、[ウエストミンスター橋(写真左図全長約350b)から眺める景観が最も美しいと言われている。国会議事堂の近くには巨大なゴシック様式の寺院[ウエストミンスター寺院]や[バッキンガム宮殿]等もあり、常時観光客で大変なにぎわいを呈している。特に観光客の人気の的はバッキンガム宮殿で毎日午前11時半から始まる[衛兵交替式]であろう。我々も折角の機会を捉えこの交替式を見学する事が出来た。赤い制服の衛兵の所作がまるで操り人形の様に動く姿が何とも言えないユーモラスな雰囲気を醸しだしている。一見の価値があろう。
この日の観光は駆け足での半日観光であったが、ロンドンを代表する歴史的建造物などを見学しイギリスの歴史と文化の一端を垣間見る事が出来た。昼食後はフリータイムでそれぞれショツピングなどを楽しみながらロンドンの休日をエンジョイする。

感想記

ロンドン滞在中我々はイギリスの衛星関係の放送局での研修を行った。我々が訪問したのは[SKY]と[BSB]と言う局であるが、両局の幹部とのミーテイングを通じて強く印象に残ったのは、英国のビジネスマン、ビジネスウーマンの仕事に対する情熱の強さであった。ユーモアをまじえた柔らかい会話の中でも常に物事をミクロ的ではなくマクロ的に捉える発想のスケールの大きさなど、発言の中に日本人とは違った国民性の様なものを強く感じた。また、放送現場でのビジネスウーマンの活躍もめざましく、男女の区別なく活躍している姿はさすが男女平等の先進国との思いを深くした。我々がロンドンに滞在中にもイギリスの公共放送であるBBC(日本のNHKと同じ)の受信料の問題、ルバート・マードック氏(オーストラリア出身で世界のマスコミ王と言われている)のメディア乗っ取り問題などが盛んに報道されており、我が国では到底考えられない事だとその当時は他所の出来事と興味半分で傍観していたが、その後我が国でも同氏の某テレビ局に対する乗っ取り事件が起こり、更に今年に入りメディアを巡る一連の動きが大きな話題として取り上げられているのを見るにつけても、当時のイギリスのメディア事情を思い浮かべながら改めて考えさせられる事が多い。短いロンドン滞在期間中見聞したイギリスの歴史と文化、放送メディアの研修を通じて垣間見たイギリスの国民性、ビジネス最前線で働く躍動感溢れる放送マン、ウーマンの燃えたぎる情熱など、大いに学ぶことが多かった。これからの時代、世界的な視野に立った幅広い考察力と先見性か何れの分野に於いても求められる事を痛感したのである。