明治7年今井藤七氏によって始められた[今井呉服店]が現在の[札幌丸井三越]デパートの原点ですが、丸井今井デパートの歩んできた道程は長い歴史の中で大きく変貌しました。


丸井今井呉服店・洋物店の開業

かっては[丸井さん]と呼ばれ地元を代表するデパートの雄として君臨してきた丸井今井百貨店は、1871年(明治4年)店祖である今井藤七氏が新潟県から渡道した事から始まります。


今井藤七氏は渡道後函館で陶器商を営んでいた武富平作氏の店で奉公、翌年の'72年(明治5年)札幌で独立して小間物屋を現在の南1条創成橋付近に開業しました。開店早々良品販売で商品は飛ぶように売れた為、藤七氏は2ケ月に一度商品仕入れのため函館まで通わなければならないほどでした。

所蔵 札幌公文書館[北海道十字の光]より

明治7年藤七氏は当時の西創成通り(現在の南1条西1丁目南西角)に新店[今井呉服店]を構え、始めて丸井今井の[のれん]を出し、呉服太物と雑貨を扱いました。丸井今井のマークは藤七氏の生家が代々”いげた”の家号であった事に加え、今井の井の字は”いげた”と共に清水が滾々と尽きることなく湧き出る井戸という吉相の文字に、これを円満、無限、永遠を表す円相の○で囲み、商売が無限に繁盛する事の願いが込められているものでした。(丸井物語より引用)。写真は、[札幌繁栄図録(高崎龍太郎・財界さっぽろ)]より引用させて頂きました。
今井藤七支店図録


写真左図は、1874年(明治7年)藤七が開業した[今井呉服店]です。所蔵 札幌市公文書館[丸井今井百年の歩み]より転載。写真右図は、明治20年胆振川埋め立て後の呉服店前の通りです。所蔵 北大付属図書館
当時、現在の南1条西2丁目の道路は[胆振川]が流れ、2丁目と1丁目の間には[胆振橋]が架けられていました。明治19年岩村北海道長官が川を埋め立てた事で2丁目通以西も急速に発展を続けました。2丁目通の完成を機に藤七氏は、明治21年2丁目通を挟んで新たに[札幌丸井洋物店]を開店し、呉服店から洋服他一切の用品を分離しましたが、これが後のデパート開店につながります。(註)当時現在の南1条通は[渡島・日高通]、2丁目通は[胆振通]と呼ばれていましたが、明治14年の明治天皇行啓にあたり条丁目改正が行われ現在名にかわりました。


明治34年丸井今井は創業30周年を迎えました。当時はまだ合名会社今井商店の時代でしたが、経営は順調に推移しており、30周年を記念した大売り出しが盛大に行われました。合名会社丸井今井は、明治44年株式会社組織に改められ、同年[札幌呉服店][札幌洋物店][藤武良呉服店][札幌金物店]を合併して百貨店建設の基盤づくりを進めました。

所蔵 北大付属図書館

本格的な百貨店の開設と推移

時代は進み我が国の経済も自給自足経済から商品経済に移行しつつありましたが、現在の札幌三越の前身である[越後屋]が明治37年に株式会社三越呉服店を設立したのを機に、東京、大阪地区で百貨店が続々と誕生しました。このような状況を踏まえ藤七氏は丸井今井本店の百貨店開設を志し大正5年10月1日北海道で最初の百貨店が誕生しました。新しい百貨店の建設場所は南1条西1丁目の[洋物店]の跡地で、現在の丸井本店の場所です。最初の店舗は総3階建て総建坪1260坪のセッシヨン様式で、北海道で初めてのエレベーターも設置されていました。この百貨店も大正13年12月28日の夜漏電により出火して焼失するという惨事に見舞われましたが、2年後の大正15年4月には、総4階一部5階建の新館が再建され、5月13日から営業が再開されました。
所蔵 札幌市公文書館

再建された札幌今井呉服店 所蔵 札幌市中央図書館


昭和に入り丸井は札幌本店の大増改築計画に取りかかり、昭和12年2月工事に着手して10月28日新店舗が完成し、11月1日華々しく営業を開始しました。新しく完成した店舗は、地上総7階で屋上広場、展望台なども設置され、大正15年の店舗の2倍の面積でした。因みに竣工時の昭和12年の札幌の人口は20万余でした。その後札幌市は、人口も増大の一途を辿り流通業界も近代化の道を歩み始めました。昭和25年丸井は社名の変更を行い、これまでの[株式会社丸井今井商店]から[株式会社丸井今井]としました。株式会社丸井今井としてスタートした後経営は順調に推移し、昭和50年には本店に[大通館]が開設され、その後これまでの小樽・函館・旭川に加えて苫小牧店・釧路店なども相次いで開店するなど店舗網の拡大に加えて多角化路線を強め昭和年代末には年商100億円を超える発展を続けてきましたが、平成に入り平成9年の拓銀の影響破綻を契機として経営危機に陥り新しい経営の見直しが不可欠となりました。

経営再建の道 丸井今井から札幌丸井三越へ

経営破綻に陥った丸井今井は、平成17年には伊勢丹などの支援を受けて二度目の再建に着手しましたが、平成15年に進出した大丸札幌店の開業などの影響を受けて資金繰りに行き詰まり、平成17年には小樽・苫小牧店の閉鎖に加え釧路・旭川店の閉鎖を行いました。函館店と札幌本店は、存続して営業を行っていますが、2011年4月1日、札幌丸井今井は札幌三越と合併して[札幌丸井三越]と改称し、長い間道民に親しまれてきた[今井]の文字が消えることとなりました。

丸井本館
2011.4.1日、(株)札幌丸井今井は、(株)札幌三越と統合して(株)札幌丸井三越としてスタートしました。現在の丸井今井は、本館の他に大通館、大通別館、南館を持つデパートとして営業を展開しています。
南1条通と丸井・三越

記事は、丸井今井90年史、丸井今井物語を参照させていただきました。