第七章 電波広告の転換期
2000 年ー (平成12年ー)第六章6-2[ニューメディアを巡る業界環境]で述べたように20世紀終盤にはデジタル放送に向けての各業界の助走体制も大詰めを迎える中で西暦2000年を迎えた。終盤のCS事業体の動きについては前章で述べたので重複を避けるが、2000年代に入ってからもCS放送を巡っては、日本テレビ放送網と日本衛星放送が共同出資で新会社を設立し2001年からの放送サービス開始を発表、又日立も新規事業参画の方針を打ち出す等、これらの動きは今後とも様々な展開が想定される業界環境にあった。更に2001年末に開始予定の次期CSデジタル放送に向けた動きも活発で、民放系・現行CS放送系・BSデジタル放送系など40社に上る参入申請があり、最終的には18社に認可が交付される処となった。
BSデジタル放送に関しては試験放送が2000年9月1日から11月30日までの3ケ月に亘り実施され、試験放送終了後同年12月1日にはあらたなBS放送各社が一斉に放送を開始した。この日をもって本格的なBSデジタル時代の幕が切って落とされたのである。
地上波テレビのデジタル化は既に三大都市圏の2003年、その他地区の2006年からの移行が決定しているが、2001年には電波法の改正により2011年中に現行のアナグロ地上波テレビを全廃してデジタル放送への完全移行が予定されるなど、道内民放各社も今後移行に向けて具体的な対応策が急ピッチで進められる事となろう。
総務省が発行している[情報通信白書平成14年版]では、情報通信の現況にふれ平成13年度末での衛星系放送事業者数は146社である。又、衛星系民間放送事業者の売上高は平成12年度末で1,891億円で前年比17.7%の増加となった。売上高の推移を見ても平成6年度以降毎年着実に20〜40%台の伸びを示しており、今後の展開には大きな関心を持たざるを得ない処である。
近い将来デジタル化への移行が決定している現行の地上波にとってデジタル化はどのような影響をもたらすのかは業界関係者には等しく関心の高い問題である。この問題を巡ってはここ数年来様々な議論が展開されている。かって1989年衛星が打ち上げられた当時、今後の地上波のあり方を巡って楽観論・悲観論を交えて大きな論争が繰り広げられていた事を想起するが、今日改めて今後の地上波テレビとデジタル化の問題点を現実の流れの中から真摯に考えなければならない。
地上波放送のデジタル化について旧郵政省時代に設置された[地上デジタル放送懇談会]が1998年10月26日発表した報告書、[新デジタル地上放送システムの形成]には様々な問題点が指摘されているが、最初に情報通信の発展を総括し次のように述べている。[1925年、社団法人東京放送局のラジオ放送開始と共に、我が国の放送文化の幕が明け、既に73年を経過した。その間1953年に登場したテレビ放送は映像メディアとして多くの人を魅了し、テレビ受信機は[三種の神器]の一つとして、国民生活の中に広く浸透していった。更にラジオはFM放送の導入、テレビはカラー化という新たな技術の導入により、放送は情報通信メディアとして着実に進歩を遂げ、現在では生活の中の基本的な情報通信メディアとして、報道、教養、教育、娯楽、実用面での情報提供を恒常的に行うことにより、我が国の文化の発展、経済の活性化に貢献している。近年のデジタル化と言う新たな技術革新を契機として、放送が情報通信メディアとして更に高度化し、飛躍的な発展を遂げる絶好の機会が巡ってきている]。報告書ではデジタル化をこのように意義付けしながら地上放送のデジタル化のメリット、社会的意義、経済波及効果についてそれぞれ次のように述べているが、本稿では項目のみを引用して内容については割愛する。
<地上放送のデジタル化のメリット> 〜視聴者にとってのメリット〜
@ 高品質な映像、音声サービスの享受
A チャンネルの多様化の実現
B テレビ視聴の高度化が可能 双方向的な番組視聴が可能となる
C 高齢者、障害者にやさしいサービスの充実
<地上放送のデジタル化が有する社会的意義>
@ 視聴者主権を確立し、新たな放送文化の創造に貢献する
A 経済構造改革に貢献する (新産業の創出、雇用の拡大)
B 国際的な相互理解と相互信頼の増進に寄与する
C 高度情報通信社会におけるトータルデジタルネットワークの完成
D 電波の有効利用の促進に貢献する
<地上放送のデジタル化の経済波及効果>
@ 経済波及効果
デジタル化に伴い放送事業者は現行のアナグロテレビジョン放送の役1万5千局にも及ぶきめ細かい膨大な中継ネットワークをすべてデジタル化するための設備投資を進める事となる。又、視聴者は現在の約1億台弱のアナグロテレビ受信機から新たなデジタル放送受信機への買い換えを中心とした購入が進む事となる。更に放送事業者側の収入については、地上放送の広告収入や、新しい放送サービスの実現によって有料放送収入等の新規放送収入が増加する。これらの投資等により、通信や電気機械は勿論の事出版、化学、不動産、金融等関連産業への幅広い波及効果が生ずる事が考えられる。10年間の経済波及効果は試算した処総額で約212兆円と推計される。又、雇用は10年間で約711万人の創出が推計される。
A 将来の放送市場規模
平成8年度の我が国の放送市場は全体で約3兆3千億円となっており、このうち地上放送が約3兆円と全体の90%を占めている。今後の多様な放送サービスなどを考え、試算した処、2010年の放送市場は、新規放送サービス市場も含め約16兆円と推計され、関連市場を含めた市場規模は約35兆円と推計される。
一方、民放研は1998年には[デジタル時代の民放経営ー2010に向けた経営対応策を探る]を、又、2000年2月には[デジタル放送産業の未来]を編纂しこの中で広告主・テレビ局・有識者の見解などをアンケートの結果として報告しているが、今後のローカル局のあり方については次のような意見が主流であると述べている。
@ 県域単位のローカルニーズをより重視すべきだ。新聞に対してテレビは 発足以来ローカルニーズを二義的に考えてきた。
A 県域を越えたブロック単位の制作・取材が進むが、広告主は広告媒体と して考えた場合ブロックという規模のマーケットは考えにくい。
B キー局・準キー局の番組比率は低下する。
一方、広告主としての考え方を要約すると次の様になると述べている。
@ 高品質な映像・音声でのCMを75%の広告主が期待している。
A チンネル増によるCM枠の拡大については広告主は余り歓迎していない。
B 地上波での長尺CMやインフーマーシャルの実現を大いに期待する。
C データー放送、双方向テレビサービスによるレスポンス広告に期待する。
D 双方向サービスを利用したマーケッテイングリサーチに期待する。
E 双方向テレビサービスを利用したエレクトロニックコマースに期待する。
又、[デジタル時代の民放経営]では[最低限のデジタル設備を整備する費用を1局当たり約45億円と試算しているが、北海道は広域エリアのため106億4.000万円ともっとも大きく、この投資額を基に2010年の経営状況を予測すると、北海道テレビ各局が経常利益率で1.0%のマイナスになるとの厳しい見方をしており、2006年以降はBSデジタル放送の普及により全国広告費の一部がBSにシフトする可能性が高く、地方テレビ局は経営環境悪化に直面する中で設備投資の回収を迫られる事となろう]とデジタル化に苦悩が想定される地方局の姿を浮き彫りにしている。
デジタル化の議論の進む中で、今後の広告費を巡っても様々な予測がなされてきた。1997年6月民放研は2010年迄の長期展望を描いた[2005年の放送ビジョン]の報告書を発表した。それによると総テレビ視聴時間に占める地上波テレビの視聴時間は2010年には60ー75%程度迄低下する。その結果として総テレビ広告費に占める地上波テレビ広告費は78ー88%程度まで低下するというシュミレーションの結果を提示した。シェアが低下する最大の要因はBSデジタル放送に対するものであるとも述べている。又、前述の民放研[デジタル時代と民放経営]に於いても今後の広告費のシュミレーションを行い、2005年にはテレビ広告費も25.935(億円)の内、地上波が24.509(億円)、BS放送814億円CS放送+CATVが612億円と推定しているが、これが2010年にはテレビ広告費28.680(億円)のうち、地上波は24.098(億円)、BSが3.746億円CS放送+CATVが836億円と、BS放送の広告費が一挙に急増するとの予測を発表している。この広告費に関連して木村庸利氏(電通 副社長)は日経紙上(2000年12月4日)でBSデジタル広告の行方と題して大凡次の様にコメントしている。その一部を抜粋して紹介すると[現在、テレビ広告の市場は二兆円で、10年後に二兆五千億円に拡大する。地上波テレビ広告は頭打ちで、10年間の増加分の五千億円はすべてBS広告になるだろう。中略 10年後、地上波とBSは互角の勝負が可能となる]と述べ、地上波テレビの将来に厳しい見方を示している。更に最近発行された[21世紀放送の論点]の中で永塚秀明氏(博報堂テレビマーケッテイング部長)はニューメディアと呼ばれている媒体の優位性として次の諸点を挙げている。即ち@ セグメントされた媒体である。A 広告形態の自由度が高い(広告表現の自由度)。B 全国統一した広告展開が可能である。C HDTVで高画質のCMが可能である。Dインタラクティブな広告が可能である。又、博報堂研究開発局が1997年8月ー9月に実施したアンケート調査(地上波関係者・その他放送関連・有識者合計100名)の内、[2002年テレビメディア環境に関する調査]にも触れているが、当時の調査結果を2002年を迎えた現在と対比してみるのも興味ある処である。その中で、2002年広告市場はどう変わるかについては[地上波テレビの広告効率は依然として高く地上波の広告需要は低下しない]との設問に対し肯定する回答が大多数を占めている事に安堵するものの、一方[地上波以外の広告メディアの有効性が高まり、可成りの広告費がそちらへシフトする] との設問に対しても可能性を示唆した回答が目立っている事も注目すべき点ではなかろうか。これに関連して2002年のテレビ産業のあり方については[現在の地上波テレビ局の優位性は番組制作能力や広告収入の点では少しも揺るぎない。BS放送は地上波の補完的役割、ケーブルテレビは地域メディア、CSは雑誌的メディアであって広告取引は現在と本質的に変わらない]と答えた人が50%、一方今後のメディア間の相互参入など百花斉放シナリオを描く答えも30%近くあり、我々としても今後のテレビ産業の行くえに大きな関心をもって見守って行きたいものである。
これまで民放発足時から1999年迄の広告費を、全国レベル・北海道地区レベルで検証してきたが、電波広告の転換期と位置づけたスタート年の2000年が20世紀の掉尾を飾るに相応しい成果を収めて21世紀を迎える事が出来るか大いに関心の高まるテーマーであつた。現時点で判明している本道電波メディアの2000年、2001年度分と、既に発表されている電通の日本の広告費2000年、2001年のデーターを引用して検証する。
電通2000年日本の広告費によれば、2000年は日本経済は景気回復基調や企業の業績改善を背景に、1998年・99年と2年続けの前年実績マイナスに終止符を打ち3年ぶりにプラス成長に転じた。2000年の広告費は既存のメディアに加え、衛星メディア関連広告費(前年比118.2%)・インターネツト広告費(同244.8%)等、新しい時代を感じさせるメディア広告費の急増と、近年とみに活況を呈している情報通信業界、金融業界の積極的な広告活動が広告費のプラス要因に大いに寄与している。電波広告についてもテレビ広告費はリーデイグメディアの地位を保持し前年108.7%の伸びを示した。ラジオも厳しいメディア競合の中で前年比101.4%と、辛うじて前年実績を確保する事が出来た。このように全国レベルでは各メディアとも順調に収入を回復し前段で触れた20世紀の掉尾を飾るに相応しい成果であった。
図64 全国媒体別広告費推移
次に北海道地区の状況を検証する。 図 65 北海道地区媒体別広告費投下額
図 66 北海道地区テレビ局収入推移
図 67 北海道地区 テレビスポ ット収入推移
図 68テレビ広告費全国地域別投下額シェア推移
図 69北海道地区ラジオ収入推移
2000年北海道地区では新聞・雑誌・ラジオ・テレビの4媒体の広告費は前年比104.6%と、全国レベルの伸びには届かなかったものの、このところの北海道の経済状況を考えればまずまずの成績ではなかろうか。媒体別では1998年北海道地区でもテレビ広告費が新聞広告費を凌駕したが、グラフでも見る通り1999年以降も引き続き優位性を保持している。新聞・テレビが順調に伸長する中でラジオ広告費が1997年以降毎年前年割れとなっておりこの点が大変残念な点であり、今後の奮起を期待したいものである。
総じて2000年は3ケ年間不況の影響下にあった北海道経済が若干なりとも明るさを取り戻した年であるとも言えようが、2000年の北海道経済白書によれば[平成12年の本道経済の動向は一部に明るさはあったものの総じて厳しい状況で推移した]との報告が基調となっている。この基礎となっている各種指標においても@
として 政策効果の低下として、公共工事請負額が 前年比マイナス9.5%となり、住宅建設も前年比マイナス、逆に企業倒産件数は増加の傾向にあることを指摘している。又、A として我々の生活に密着している個人消費の伸び悩みを挙げ、新車登録数、家電販売額は順調に推移したものの大型小売店、コンビニエンスストアの販売が前年マイナスとなったことが景気低迷の大きな要因であり、加えて2000年3月31日の有珠山噴火が直接・間接的に道内観光面に暗い影を落とし、本道経済は不況感を払拭出来ないまま21世紀を迎える事となったと結論づけている。一方、財務省(旧大蔵省)が毎年四半期毎に実施している[景気予測調査]の直近のデーター(平成13年2月調査)北海道地方の概要が、北海道財務局の広報NO84に記載されているが、これによると、景況判断としては、現状は引き続き[下降超]であるが、先行きは[下降超]幅が縮小する見通しとなっている。又、売上高についてのアンケート(1千万円以上の金融・保険を除く営利法人)では、平成13年度上期は全産業で前年同期比5.7%の増収見込み、経常損益でも前年同期比22.0%の増益を見込んでおり、今後の企業活動でも明るい見通しを示している。道の経済白書が指摘するまでもなく、本道にとって従来の公共事業を含めた公的依存体質からの脱却と自立化は最大の課題であり、そのためにも産業構造の改革が急がれる処である。本道の経済社会の変化をIT革新に求める声も強く、札幌バレーを始め道内IT市場の拡大とIT産業の育成・強化なども官民挙げて取り組むべき中心的課題であろう。
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